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フローマインド7    表情・言葉・態度を選択する生き方  

2021.04.28

表情・言葉・態度を選択する生き方  (辻秀一メソッドより)


 

■             フローになって自分らしく生きる

自分の感情に気づいたりするということの重要性をお話ししてきました。「揺らがず・とらわれず」というフローの心の状態、そういうことを人生の中に自分でつくっていくこと。外側の出来事に支配されてではなく、自分自身で「揺らがず・とらわれず」という状態をつくっていくこと。

それは「揺らがず・とらわれず」という心の状態、フローの状態のほうが、元気で自分らしく生きることができ、自分の機能が高まり、機能がアウトプットしやすくなるという人間の仕組みなのです。

そこで、我々は外側の出来事に関係なく、自分の心の状態にフロー化するためのツールを持っています。それは何かというと、「表情」「態度」「言葉」です。人間はこの「表情」「態度」「言葉」次第で、自分の心の状態に変化をつくり出すことができます。医学的にも心理学的にも科学的にも、人は表情次第、態度次第、言葉次第で自分の心の状態が変えられます。心の状態に変化をつくり出すことができるのです。

 

■             自分の心を決める3大ツール

ところが、この大事な「自分ツール」「自分道具」を心のために使っている人が少ないわけです。なぜなら、それを使う脳がライフスキルで、そのライフスキルというのが磨かれていないのです。認知の脳で外側の出来事に意味づけをして、心の状態が決まって、それによってどんな表情をするか、どんな態度をするか、どんな言葉を使うかというふうに、やっているだけなのです。

例えば朝から「何かイヤなことがあって」と認知して、意味づけして、ノンフローで、気分が悪いから「朝から最悪」と言っている。何も考えていないです。認知に任せたまま、反応しているだけです。朝からこんなことがあって、自分は意味づけして揺らいでとらわれて、ただ表情に出して眉間にしわを寄せている。朝からこんな気分になって、こんな態度になって、ため息をついている。ライフスキル的には何も考えていません。

認知の脳はちゃんと働かせています。ため息をつくのも眉間にしわを寄せるのも、最悪という理由もすべて外側にあることはわかっています。確かに「最悪」という理由が何かあるんでしょう。確かに眉間にしわを寄せる理由は、何かあるでしょう。確かにため息をつく理由は何かあるでしょう。それはそれです。

しかし、フローの価値をよく熟知する人であれば、そんな外側の出来事にだけ支配されて自分の心が決まり、挙げ句の果てには自分の心を決めるこの三大ツール「表情」「態度」「言葉」までも、その外側の状況に支配されて反応しているだけで、もったいないと感じるのです。

 

フローの価値をよく思いだしてみてください。揺らいでとらわれているより、揺らがず・とらわれず。ノンフローよりフロー、機嫌が悪いより機嫌がよければ、どんなことができるのか。

フローの価値が明確になっていると、そうやって支配されるということが減ってくるわけです。自分の心は自分で決めたくなっているからです。

フローの価値。自分それぞれいろいろなものがあると思います。元気になるんでしょうか。アイデアが出るんでしょうか。余裕が生まれるんでしょうか。視野が広くなるんでしょうか。人に優しくなるんでしょうか。

ノンフローの時は、そういうフローの価値を享受することができないわけですが、そういうことを自分自身が享受したければ、外側の出来事は変えられないので、自分のツールを使うしかないのです。

 

■             イチローが慎重に言葉を選ぶ理由

この自分ツール「表情」「態度」「言葉」。すばらしいことは、誰もが持っているということです。イチローさんも持っていますけど、皆さんも持っています。石川遼も持っているけど、皆さんも持っています。世界の一流選手が持っている「表情」「態度」「言葉」。皆さんも持っているから平等です。

スポーツ選手だけではなく、ビジネス界で安定して自分の力を発揮しながら、成功と幸せを両方手に入れている経営者やビジネスマンも、同じように表情や態度や言葉を持っているはずです。でも何が違うんでしょうか。

それを自分の心のために使っているかどうかが大事なんです。

 

もう一つ、この3つのツールの素晴らしいところは、いつでもどこでも持っているということです。ある時だけ持っているようなものではありません。あなたのいるところはいつでもどこでも「表情」と「態度」と「言葉」はあるはずです。でも、使っていないです。

「今日は急いで来たので、表情は家に置いて来た」とか、「今日は態度はまだあの鞄に入れっぱなしで」とか、「言葉は新幹線の網棚に忘れて来てしまった」とか、そんなことはありません。あなたは、必ず表情・態度・言葉を必ず持ち歩いているはずです。

何かに反応する道具としては、持ち歩いているのかもしれません。

 

ライフスキルのある人は、「反応する道具」から「自分の心を整え、自分の心をマネジメントする、自分の心の状態をフロー化させるための道具」として使っていきます。道具として、どういうふうに使ったらいいのかを選択していく脳の力がライフスキルです。

ライフスキルの高い人は、間違いなく自分の心のフロー化のために、「表情」、「態度」、「言葉」を選択しています。

 

例えば言葉ですが、いろいろなスポーツ選手がインタビューに比較的ゆっくり言葉を選びながら答えているシーンを思い出しませんか。

イチロー選手は、みんなにどう思われるかということを気にしながら言葉を選んでいるのではなく、自分の心の状態を常にフローにするために、どんな言葉を選ぶのかを自分のためにやっているんです。自分の心をフロー化すれば、結局はインタビューに答えるというパフォーマンスもよくなるし、自分の言葉を選んで自分の心をよくすることができれば、結局、いい活躍をしてマスコミやその向こう側にいるファンの人たちが喜ぶということを、よくわかっているからです。

 

脳がしっかり働いて心を整えてフローになるからこそ、あらゆるパフォーマンスがよくなって結果をつくり出せるというこの順番を、常に意識しているからです。すなわち、これを何と言うかというと、「心エントリーな生き方」ということです。

 

■   「心エントリー」になれない言葉

皆さんの中には、心エントリーでない人が多くいるのではないでしょうか。例えば、こんなのがしょっちゅうあるはずです。

朝起きたら雨が降っていました。もう何も考えないで「最悪……」とか言いませんか?

そして、冷蔵庫を開けて自分が食べようと思っていたケーキを、前の日の夜に子どもに食べられてしまって、「ないじゃん! マジかよ、最悪……!」と、また言いませんか? 牛乳を飲もうと思って見たら、賞味期限が切れていてまた「最悪……」と言いませんか? 出かけようと思って携帯電話を机のところに取りに行ったら、充電するのを忘れていて、また「最悪……」と言いませんか?

そして出かけました。

雨の中出かけている間、近くを通った車が泥をはねたら、またそこで「最悪……」と言いませんか? 駅に着きました。人身事故が起こっていて、今電車が来ないで「待たなきゃいけない」と気づいた瞬間、「最悪……」とつぶやきませんか? 待っている間、ずっと「最悪だなあ」と心の中でつぶやいて、会社の同僚にメールしませんか。「最悪なんだよ」。長く待って混んでいる電車が来たら、ひと言目に「最悪だな」。乗っている間も満員電車の中で「最悪でさ」と言って、会社にさらにメールをします。そして会社の駅に着いて降りる時にひと言、「最悪」と言いながら、会社に 着いてみんなに「今日は朝から最悪なんだ」と言っています。

今のは極端な例ですけれども、朝起きてから出社する8時までの間に「最悪」がもう10回近くあります。「最悪」というのは最も悪いと書くのですが、それを平気でみんな使います。何も考えずに、ただ反応しているからです。最悪、最悪、最悪、最悪、最悪です。

最悪と言っているのが最悪な感じがしませんか。「最悪」と言ってフロー化が起これば、それはいいです。「どんな言葉は言っちゃいけない」とか、「どんな言葉は言わなきゃいけない」かは、一切ありません。僕は、少なくとも「最悪」と言っていて、あまりフローな方向にはいきません。なので、言葉を自分で選びたいと思います。

 

「最悪」と言って満員電車が空くなら言います。でも、空かないです。「最悪」と言って息子が食べたケーキが出てくることはないです。「最悪」と言って雨が止んで晴れることはないです。

言って気分も変わらない。外側に起こった現象も変わらないのに、我々は何も考えず反応しながら、自分の心の状態を決してよくすることもないものを、反応的に反射的に、「パブロフの犬」のように仕組まれて我々はやっちゃっているのです。ライフスキルを磨いていないと、こういうことになります。

 

■             マイ・フローワードを10個持つ

言葉を選びましょう。自分の心のためにです。

なんでこの言葉は言わなきゃいけないのかは、外側に理由はないです。その言葉を言っているほうが、自分の心の状態がフローな方向へ傾くから、この言葉を使うんだ。そういう言葉を「フローワード」と呼んでいます。

フローワードをまず持ちましょう。普段から心がよくなることを一つの理由や答えとして言葉を選ぶ習慣をつけましょう。さらには自分の「マイ・フローワード」を明確に持っていて、いつでもどこでもその言葉を言えば、自分の心にフロー化が起こる。そういう言葉をたくさん持っていてほしいと思います。

例えば、「マイ・フローワードを5つ考えてください」というのに、「難しいなあ」とか「ないなあ」と言う方々がいっぱいいます。心を理由に言葉を選ぶという習慣が、今までなかったからですね。でも、「この言葉を言うと俺の心はどうなるんだろうなあ」と考えながら、言葉を選択していくわけです。

ちなみに、私はフローワードをいっぱい持っています。たくさんあったほうが便利です。だって、そのフローワードで心をフローにできない時もあったら、別のものをどんどんどんどん次から出してフロー化を起こしたいからですね。

 

自分の、マイ・フローワードでいいです。私は娘が2人いるので、娘の名前を言うだけでフローになる時もあります。でも、ダメな時もありますね。そうしたら違う、例えば僕はスラムダンクが好きだし、「仙道」とか言っただけで、なんか気分がちょっと変わったりしますね。

あとは例えば「日本一」とかね。なんで「日本一」って今ここで言わなきゃいけないのか、理由はないです。

もちろん、認知の会話で言葉を選ばなきゃいけない時はあります。例えば、「先生、こういう時はどのように思いますか」「日本一」とか言ったらおかしいですよね。それは認知の脳が 間違えています。

外側の出来事に反応して、言葉を選ばなきゃいけない。人から怒られている時に、自分のフローワードで「日本一!」 とか「仙道!」とか言ってたらおかしいですよね。「お前、今怒られてる時だろう」と言ったら、その時は「はい、すみません」というのが言葉としては合っていますね。

 

外部の状況に反応して合っているとか合っていないとか、その時の状況に正しいとか正しくないとかいうのが、認知による言葉ですね。これも大事ですよ。ただ、これは私の専門ではなくて、みんなが「ロジカル・シンキング」だったり、学んでいる場、教育の場ですね。

私が言いたいのはそうではなくて、そうやって外側の出来事に反応しながらも、自分の心を整えるための言葉をちゃんと持っていたら、いつでもどこでも何時でも、私たちは心をフロー化できることがあるということを、普段から学び、練習していること。このことの価値を主張しているわけです。

 

皆さんのフローワードはなんなのか、わかりません。「自分で考えるべし」です。フローワードを最低、5個や10個ぐらいは持っていてほしいですよ。

人から言ってほしい言葉ではありません。なぜなら、人が言ってくれるかどうかは、また人依存性だからです。

「こういう言葉を言ってくれると、俺は気分がいい」

それは人に任せているからダメです。フローワードを自分でつぶやいて、口で発するものもありますし、脳で考えるものもあって、どっちでもいいですが、その言葉をつぶやけば自分の心の状態に変化を催せるフローワードをぜひ持ってください。

 

■             自分がつぶやく言葉が心をつくる

「温泉」とか言えば俺はなんか気分がいつもよくなるんだよみたいな。そういうことですね。でも、社長プレゼンの時に役員会議で「温泉!」と役員の前で言えというんじゃないんです。

「ヤバいなあ。プレゼンどうしよう、どうしよう」と言っている時に、ちょっと「温泉」と言っただけで気分がフロー な方向にいったら、「いいプレゼンができるでしょう?」ということが言いたいんです。

でも、それは日頃から練習して、マイ・フローワードをちゃんとスキルとして自分のものにしていかないとダメです。そのためには、実践して自分がそういう心のフロー化を感じるという体感を日頃から持っていないと、人はやれないです。

だからぜひ考えて実践して、そしてそこで得た体感を自分のものに意識して、「ああ、これは俺のフローワードになり得るな」というものを、増やしていってほしいと思います。

 

「口に入れる食べ物で身体ができるように、耳に入れる言葉で心ができる」と、私は思っています。口に入れる食べ 物で、身体ができているんです。これも知らない人が多いかもしれませんけれども、我々の身体は自分の口に入れるもので出来上がっています。だから選びますよね。

例えば皆さん、すごくお腹がすいている時に、状況は「お腹がすいている」です。おいしそうな腐った食べ物が地面に落ちていて、あなたは食べますか。状況はむちゃくちゃ腹が減ってるんですよ。そこに、おいしそうな腐った食 べ物が地面に落ちています。

食べますか?  食べないですよね。食べる前に考えるでしょう。今は食べたい状況はあるが、「食べちゃって俺の身体は大丈夫かな?」と考えませんか。そして、選ぶでしょう。

 

それと同じように、言葉も選んでほしいんです。雨が降って満員電車で人身事故が起こって、携帯の充電がうまくいっていなくて、たしかに最悪という状況は認知的にはありますが、でもそこで「最悪」という言葉を言って心の状態がフローになるかどうかを考え、言うかどうかを選択し、どんな言葉を言えばフロー化が起こるかという選択ができるのがライフスキルです。口に入れる食べ物で身体ができるように、耳に入れる言葉で心ができます。

自分の耳に入れる言葉で一番近くから出ているのは、己の口から出ている言葉です。皆さん、気をつけてください。無意識に「無理」とか「ダメ」とか「最悪」とか言ってるような気がします。認知の脳だけに任せていると、必ずそうなりますよ。

 

■             なぜ宮里藍はいつも笑顔なのか

表情で思い出すのは、宮里藍選手とかですかね。バーディーでもボギーでも、何かいい表情をしていますね。バーディーでもボギーでも、ボギーでもバーディーでもいい表情で、どちらかというと笑顔がある気がします。

それはなぜなのか。よく考えてみてください。ボギーやバーディーは変えられないですね。それに反応しながら、バーディーを取った時は笑顔、ボギーの時は何か眉間にしわを寄せるがっかりする表情をするのは、誰でもできます。相手の反応にだけ従っていきますね。

この話をすると、よく会社でサラリーマンの方々がこう言います。「それはバカだからじゃないですか」と言った りしますね。宮里藍選手はバカだから、ボギーでもバーディーでも笑顔でいるのではないです。

自分の表情が自分の心をつくり、自分のパフォーマンスを決定し、それが結局は結果を生むという、心エントリーな生き方をしているからですね。そうじゃない人は逆ですね。結果エントリーです。ボギーだから認知して、ノンフローになったから表情に出ているだけです。外側の出来事が変わるまで笑顔はこないです。

また次のティーショットを曲げて、また池に入ってラフに入って、常に眉間にしわが寄っているおじさんが多いわけですね。「バーディーさえ来れば、俺は笑ってもいいんだけど」みたいな。来ないですね、そのおじさんにはね。 結果エントリーから始まっているからです。

 

結果をつくるのは自分のパフォーマンス。自分のパフォーマンスをつくるのは、自分の心。自分の心をつくるのは自分のライフスキルだということがわかっている人と大違いです。

もちろん、認知による笑顔も、別にそれはそれでいいです。楽しいことがあったら、おもしろいことがあったら、笑うことがあったら、笑えばいい。眉間にしわを寄せるようなことがあったら、眉間にしわを寄せるのは、それはそれでいいんです。でも、フローの価値の高い人は、その外側の出来事にそのまま支配されず、早く切り替えていこうとします。

 

表情で言うと、2011年、なでしこジャパンの世界一です。サッカー日本代表の女子、澤選手をはじめ、世界チャンピオンになりましたが、世界ナンバーワンのアメリカとやっているPKの直前、みんな笑顔でしたね。

笑顔の理由は、外側に何一つなかったと思います。「もうここまで来たから満足」という笑顔だったわけでもなく、誰かがおもしろいことを言ったから笑っていたわけでもなく、あの表情はライフスキルの賜物です。笑顔でいるほうが、自分の心の状態がフローな方向へ傾き、フローな方向へ傾いていくからこそ、パフォーマンスが高くPKが蹴れる。PKを守ることがキーパーもできる。そんなことが普段の練習からされていたのだと思います。

 

■             ライフスキルを実践したなでしこ

そのことにすごく気づいたのは、彼女たちが世界一になったあと、あらゆるメディアに引きずり回されるかのごとく登場して、同じようなことを何度も何度も聞かれたり、朝早い番組から夜中の番組まで出なきゃいけない。そのある番組の撮影裏、もしくは撮影していない時の移動中の場面が彼女たちに内緒で撮影されているというのが、報道された番組がありました。

サッカー選手ですからテレビに出るのは仕事ではないですし、練習もあるだろうし、疲れているだろうし、認知していけばノンフローになることが山ほどあるのですが、でもその隠し撮りされた番組と番組の合間の時に、彼女たち はほとんど多くの人たちが、みんな笑顔な感じだったんです。

 

それはなぜでしょうか。1番、バカだからなのか。2番は、そこにおもしろいことがあったからなのか。3番、ライスキルを使って笑顔でいるほうが、外側の状況は変えられなくても自分たちの気分がよくなるということを、日頃から練習されてスキル化されているからなのか。

答えは3番ですね。別に外側に理由はなかった。そして、バカだからでもない。私は間違いなく、彼女たちが日頃からそういうことを実践して体感して、自分のものにすり込んでいる、そんな気がしてなりませんでした。だからこそ、大事なところで笑顔でいられたんじゃないかなと思いたいですね。

 

我々はどうしても認知の世界で生きているので、外側の現象に反応していることが賢いことのように錯覚しています。

たしかに外側の出来事に反応しなくなってしまったら、認知症でこれはやばいですね。おもしろいことを見て、漫才を見ているのに笑えなくなってしまったら、これは問題です。

 

自分の心をマネジメントするための道具として表情を選べるようになることが大事だ。これが人間の実は本当に賢い生き方の一つだと思います。

ライフスキルは、外側の出来事に反応しないからバカなツールなのではなく、本当に賢いツールだと改めて考えていただければなと思います。

 

■             ビジネスもスポーツも厳しさは同じ

ビジネスマンのトレーニングが最近すごく多くて、私のところのワークショップにもビジネスマンの方が来られて、

「いやあ、スポーツよりビジネスのほうが厳しいんですよ、先生」って。まあ、確かにそれもわかりますが、でも、スポー ツのほうがちょっとでも揺らいだりとらわれたりすると、パフォーマンスが結果になって反映しやすいので、決してビジネスだけが厳しいわけじゃないような気もします。どっちも同じなんじゃないですか。自分のパフォーマンスが  自分のつくり出す結果に大きく影響を与えているこの構造は、まったく一緒です。

 

うまくいかなかった時だけ、「急に笑え」とか、そういう話じゃありません。

「そうだ、表情が大事だ」とか言って、「今日はなんか部長にイヤなこと言われてムカついたから、笑ってみよう」とかいってやっている時は、まだ部長にとらわれてます。

そうじゃなくて、普段から自分が表情を選び、笑顔でいるほうが気分がいいという練習をして、体感して、それが脳の中にすり込まれていけば、自然に「部長に怒られたからムリやり笑顔にする」という発想ではなく、 笑顔になるんです。自分自身の心の状態をフロー化することの価値がわかり、それが練習されて体感されている人は自然に笑顔になるのです。

 

バスケットボールの事例を出します。試合になってディフェンス、右側のディフェンスが寄られたから、「そうだ、左のドリブルだ」といって、普段練習していないやつは、そこで左のドリブルで抜けないわけですよね。

日頃から何もない時に左のドリブルをたくさんやって練習しているからこそ、本番で右側から寄られた時に、自然に左が抜けるようになる。

普段左のドリブルをしていないやつが、右利きだったら、試合の時に急に左のドリブル抜けないですよ。だから、それなりに左のドリブルをしておけば、その状況がやってきた時に抜きやすくなる。難しさを超えて。そうするとまたそこにいい体験が起こって、ますます練習の効果が上がるという感じです。

日頃から練習しているからこそ、「本番」。心で言えば、いつも本番だし、いつも練習です。

 

ノンフローになった時を本番だとすれば、ノンフローになった時に自分のライフスキルが自然に出るのは、日頃から練習しているからです。日頃から練習しているからこそだし、日頃から練習している人にのみ、そのノンフローになった時に、笑顔ということの価値が自然に実践に移される。そんなふうに考えてください。

笑顔が必ずしもいいとは言っていませんよ。皆さんのフロー化になる表情は、自分自身で選択しよう。言葉と一緒です。ただ、笑顔は間違いなく人間の構造上、どんな人もフローな方向へ持って行くのは間違いないので、笑顔も一つ大事だと思います。

 

■             剣豪は態度を見れば強さが分かる

そして態度も大事です。外側の出来事に支配されて、ため息をついたり、肩を落としたり、態度を自分でつくるなんていうことは、あまりしていない感じがします。何も「威張れ」とか「傲慢になれ」と言っているのではなくて、態度次第で心が変わるよというこの人間普遍の原則をしっかり日頃から自分のものにして、実践してほしいだけです。

どんな態度でいたら、皆さんは心がフローになりますか。いろいろあると思いますね。穏やかな態度のほうがいい 場合もあるだろうし、堂々としている態度のほうがいい場合もあるだろうし、実践して体感をちゃんとつくっておいてくださいということです。

 

態度で思い出すのは、やっぱり松井秀喜選手です。いつも穏やかな態度ですね。何かイヤなことがないから穏やかなのではなくて、穏やかな態度が自分の心をつくり、自分の心が自分のパフォーマンスを生み出し、そしてそれが結果を生み出すというふうなことを、松井秀喜選手はわかっているからだと思います。態度を自分で選択していく。 これも極めて重要なことだと思います。

 

私が尊敬している剣道の栄花直輝選手。世界チャンピオンですが、NHKの「人間ドキュメント」で彼の特集がされて、心のあり方を大事にするというような特集だったのですが、それが非常にすばらしい番組だったので問い合わせが多くなって、剣道連盟がその番組を誰でも見られるようにということで、DVDが市販されています。興味のある方はぜひ見てみてください。「ただ一撃にかける」というDVDです。

 

私はこのDVDを見て、栄花直輝選手という剣道の方にすごく感動しまして、手紙を書きました。対談したいということで、北海道の警察の方なんですけれども、東京に来てくださいましていろいろ対談して多くの方々に来ていただいて、みんなにシェアしたのですが、2人で食事をしている時に、栄花さんに「どんな人が強いんですか。強いか どうかってわかるんですか」という質問をしたら、すごい答えが返ってきました。

「座っているだけでわかる」と言ったんですね。「どうしてですか」と言ったら、「座るという態度に、その人の心が見えるからだ」と言いましたね。その態度が心をつくり、心が態度をつくり、この両方の関連性を非常に大事にしているなと思いました。

 

心の状態が態度にも出ている。これはもちろんみんなそうですけれども、「じゃあその心をつくるためにどうしているか」というと、剣道連盟は態度のちょっと幅の広いバージョンですけれども、挨拶ひとつを大事にしろと言っているんですね。

全日本の合宿で、挨拶の仕方とか、座り方みたいなものを教わるらしいんですね。その挨拶や堂々とした態度で座っていることが、また心をつくっていくというようなことを、彼らはわかっているかららしいんです。それにもまた感動しましたが……。

 

何が言いたいかというと、態度次第で皆さん心の状態が変わっていきますので、ちょっと心がけてみてください。これも正解はありません。

どんな態度が自分の心をその時に変えていけるんだろう。外側の出来事は変わらないけど、ため息ついてるほうがいいのか、肩を落としているほうがいいのか。ちょっと考えてみてください。

 

■             腹式呼吸でフロー化を起こす

態度の中にもう一つ、広い意味で私は「呼吸」というのを入れています。呼吸を大事にすることで、心の状態が変わります。

とかく我々は認知でノンフローになった時に、呼吸が浅くなっています。小さく速い呼吸になりがちです。そうすると、ますます苦しい感じになってくるので、認知が働いてますます呼吸を速くしてしまうので、余計に心の状態に  乱れが生じて苦しさが生じます。そんなノンフロースパイラルになっているケースが、すごくたくさんあります。なので、ノンフローになった時だけ深呼吸するのではなくて、日頃から呼吸を大事にするということがフロー化にとって大事な態度、大きな意味での大事な態度になります。

 

呼吸を意識してみてください。大きく深い呼吸です。

基本は鼻から吸って口から出す。鼻から吸うのを3ぐらい、口から吐くのを7ぐらいのペースでしょうか。そんなことを時々意識していると、気分がちょっと変わるなんていうことが必ず起こるはずです。

武道の世界では、その呼吸を意識することによって、丹田というんですか。お腹の奥のところに意識が集中されてフロー化を起こす。ゾーンに近い状態をつくるのは腹式呼吸、呼吸法だと言っている人もいます。

 

脳科学的には、腹式呼吸をきちんと行うと、脳の中に人間がフローと感じやすいような「セロトニン」という物質が分泌されやすい、というようなことをおっしゃっている学者さんたちもいらっしゃるほどです。昔から言う腹式呼吸をして、呼吸を大きく深く吐くことを意識しながら、7対3の割合で呼吸をするということは、武道の立場からも丹田が意識されて集中すると同時に、脳科学的にもセロトニンの分泌で心に変化をつくるということがわかっています。

 

苦しい時は吸うんじゃなくて、ゆっくり吐くことを意識するということができると、呼吸のバランスが整って脳の バランスがよくなって、そして酸素と二酸化炭素のバランスがよくなって、心が整いやすくなる。吐くことを意識して、長くやるんです。まず「吐く」からいくんです。苦しいから「吸え」からじゃなくて、腹式呼吸や深呼吸は「吐く」です。ふーっと思い切り「吐く」です。

吐いた分だけ吸うようにすれば、もうそれが一番いいバランスになるんです。だいたい吐くことを意識するために、 吐くことを長くするというので、7対3ぐらいの割合で、7数えながら思い切り吐いて、3ぐらいで吸うようなリズムが  できていると、ちょうど吐くことを意識した脳のバランスがいい酸素と二酸化炭素のバランスがいいようになってくるので、心に変化が起こります。

 

人間は無意識に一分間に15回とか20回とか、呼吸しています。なので、時々一日の中で、自分の心のために呼吸と いうものを意識して行う習慣、練習をしてみてください。心に必ずフローは起きます。

そういうことが日頃からやれていると、「ノンフローだなあ」という感情に気づいて、ちょっと呼吸法を自分の中 で無意識的に大きく深くするようになって、無意識的にフロー化を起こして、無意識的に切り替えるということができるようになってくる。これがフローのライフスキルの醍醐味じゃないでしょうか。

 

■             言葉、表情、態度を心のために選ぶ

この醍醐味を味わうのは、何回も申し上げているように、日頃から意識して練習していること、実践していること、そしてその体感をしっかりと自分の経験として積んでいることです。

本を読んだり話を聞いただけでフローは起こらないし、ライフスキルが身につくことは、残念ながらありません。実際にこの話を聞かれて実践してみて、皆さん自身に起こった体感と体験こそがご褒美で、それをしっかり自分のものにしていくことができれば、自ずとスキル化していくので、いつでもどこでもフローな方向へ持っていけます。

ノンフローにならない人生なんか、絶対ないです。認知してしまう限りは、人はノンフローのリスクをいつも負います。意味づけがあるからです。

意味づけがなくなったら怖いです。外側の出来事に反応しなくなるので、行動できなくなるし認知症です。今後ずっと「揺らぎ」と「とらわれ」という認知と意味づけに支配された人間の中で、いち早く切り替えてフローな方向へ持って行くために、こういうスキルを普段から身につけておくような考えで実践していただければと思います。


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